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『 桃林窯 器こぼれ話 』

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ドナドナ

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車の調子が変だと感じたのは、ゴールデンウィークが終わった頃だろうか。
ナンが中古車屋で買ってきてから、まだ半年ぐらいしか過ぎていない。

その車を一緒に見に行った時、小ささと可愛さに即決した。
燃費が良くて、小回りが利く。
なんと言ってもクリクリした顔が、愛らしい・・。

車を手に入れて、スーパーで買い物を終えて駐車場に戻ってみると、
よく人が車の周りに集まっていた。
「すごくかわいい車ね、何ていうのこれ?」
聞かれるのも、一度や二度ではない。
そうなると、まるで自分の子供でも褒められているような、
変に嬉しい気分になるのだった。

ある日、ナンと一緒に峠を越えて温泉に出かけた日のことだった。
峠を登り始めたばかりだというのに、様子が変だ。
ギアが変速しない。
ドライブモードのまま登ろうとする。
峠の坂がどんどん急勾配になってゆくのに、シフトダウンしないまま苦しそうに車が唸りだした。
そのうち焦げ臭いにおいがしてきた。
「ちょっと、変だよナン。車を止めようよ」
車を左に寄せて、しばらく休ませて事なきを得たが、
その日を境に、何となく車がつらそうにするのを感じるようになった。

「買い替え時かな・・。この車古いし、へたに修理するより状態のいい車に
買い替える方が安くつくかもな・・」
情が移ってしまった車なのに、ナンがそんなことを言い出す。
「車検がまだ半年あるし、今なら買った時と変わらないくらいの値段で手放せるから、
キーマそうしよう。」
車のことはさっぱり分からないが、ナンがそう言うんならそうなんだろう・・。
大きな目が、そばで泣きそうな顔をしているように見えた。
「車だから感情はないのよ・・。」自分にそう言い聞かせたが
なんだか、つらい・・・。

「車を手放そうと思ってるの・・。」ある日そんなことを義弟に言ったら
「それ、おれが買いたい!!」と、願ってもないことを言う。
「えっ?ほんと?買ってくれるの?」
義弟は、メカニックで車が大好きだ。修理して手を加えて、ずっと乗り続けたいという。
きっと大事にしてくれるに違いない。それにいつでも会える・・。
自分に無理にそう言い聞かせて、手放すことにした。
車が売られて去ってゆく時は、きっとドナドナの子牛みたいに涙が出るにちがいない。

一週間して、義弟がやって来た。いよいよ別れの時だ。
義弟が車に乗って、手を振った。
「あ・・、私の車が・・・」  車がゆっくり動き出した。

「えっ・・、あれ?」
なんでだかわからないけれど、車がとても嬉しそうにしていた。
大きな目をクリクリさせて、まっすぐ前を見て、
まるでこれから遠足に行く子供みたいに、喜んでいるようではないか・・・。
なかに乗っている義弟は、もう車のお父さんだ・・。
行ってきま~す、とそんな感じだった。

「なんだか、あっさりした別れだったよね・・」
涙、涙の別れのはずだったのに・・、 あっという間に親離れして、
すっかり肩透かしを食らった私は、トボトボと自宅へ続く坂道を上がった。
                                   キーマ
                              

 



可愛くて小さいサイズはどこにでも止めることができた。
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ナンは友達が来るたびにメルセデス製のエンジンを自慢。
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ワゴン車の半分の大きさ、燃費も半分。
わ~ん、カムバック!!
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by my_utuwa | 2012-07-16 13:45