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『 桃林窯 器こぼれ話 』

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ツバメのお宿



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黒髪山のふもとに移り住んで、12年が過ぎた。
当時、建築でお金を使い果たした僕たちは、引っ越しの後片付けもそこそこに、
工房とギャラリーをオープンさせなければならなかった。
オープンしながら、裏では後片付けに追われるというありさまだったが、
そんな僕らにひとつだけ、人に言ったら笑われそうな小さな望みがあった。
新しい家にツバメが営巣してくれないだろうかという、たわいもない望みだ。

有田の陶器市通りのあちこちで、ツバメが巣を作って子育てしている様子を見ていた。
時折顔をのぞかせるヒナは、なんとも愛らしい。
「いつか、僕らの家にも来ないかな」
キーマとよくそんな話をしながら、眺めていたものだ。
飽きることは、全くなかった。

引っ越しして来て一か月ぐらいたったある日、外での作業をしていると
スーッと頭の上をよぎるものがあった。
見上げると、ツバメだった。
もしやと思い工房の入口を大きく開けてやると、様子見をしていたツバメは
やがて中に入っていった。
そっと覗いてみてみると、ちょこんと棚板の上で首を傾げて止まっている。
営巣するんだろうか・・・。
僕たちの期待は一気に膨らんだ。

やがてツバメが三羽、かわるがわるやってくるようになった。
なぜだか、いつも三羽だった。
泥を運んで来た時は、小躍りさえしたものだ。



僕らの今年の春はいつになく、とても忙しかった。
ツバメがやってきたのに気付きながらも
工房のドアを開けてやるタイミングを、つい逃してしまった。
こんな失敗は、初めてのこと、
キーマが気付いて入口を開けたが、もう初夏をとうに過ぎていた。
卵を産むタイミングを、すっかり逃したのだろう。
ツバメは営巣することなく、1羽だけがたまに夜、寝泊まりに来るだけだった。
「今年はもう、無理かな・・・」
うっかりしたのが、心の底から悔やまれた。

7月中旬、土の準備のため一階に降りてみると、
ツバメの古巣の影がかすかに動いた。
しゃがんでいるツバメの頭が見えている。
「やったー!!」

キーマと僕は、今年もいつものようにツバメの巣を見上げている。
僕らのせいで、子育てをすっかり遅くさせてしまった。

南の国に帰る頃、ヒナは大きくなるんだろうか。
過酷な旅に耐えられるだけの体力をつける時間は、あるのだろうか。
巣を見上げるたびに、キューンと胸が痛むこの頃だ。         
                                       ナン




今年は4羽のヒナが育っている。
普段は物音も立てず、じっと巣の中に隠れているが、
親がえさを運んでくると、けたたましく並んで餌をねだる。
巣は作る手間を省いて、去年のリユース。

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ごめんなさいね。
巣の中は、きれいに使わなければならないので・・・。

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夏の粉引きの冷酒入れ。
キーマは小鉢に使っていた。
もらったゴーヤを軽く湯どうしして、薄くスライスして食べる。
おかかを乗せて生醤油で。
ほろ苦い夏の味だ。


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今年の夏にできたばかりの、刷毛目の板皿。
今日は、ひんやりショコラケーキを乗せている。
ブランデー漬にした、キーマの好きな栗がたくさん入っている。
甘くない大人のケーキ。
ブランデーのいい香りが漂っている。

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今年はギャラリーの入口に朝顔を植えた。
青い朝顔ばかりを植えている。
毎日ギャラリーに行くのが楽しみになった。

この辺は涼しいのか、夕方まで咲いていることも多い。
夕方になると、青い朝顔は紫色に変わっている。

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グリーンのカーテンとまではいかなかったが、ガラス越しに緑の陰が風に揺れる。
来年はもっとたくさん植えてみよう・・・。
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by my_utuwa | 2009-08-14 22:43